VTuber市場の成長カーブが緩やかな成熟期へと移行するなか、業界最大手の一角が「デビュー前」を新たな興行接点として打ち出した。完成されたタレント像を見せる従来の手法から離れ、成長過程そのものをファンと共有する形式である。
カバー株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:谷郷元昭)は5月8日、新たなタレント育成プロジェクト「mekPark(メクパーク)」の始動を発表した。今年1月の予告から約4カ月を経ての本格スタートとなる。練習生3名とディレクター1名が1つのユニットを組み、共にプロデビューを目指す新しい形の育成プロジェクトだ。活動期間は最長2年で、才能が認められれば期間を待たずに早期デビューを掴み取る可能性もある一方、期限内に基準へ届かなかった場合は正式デビューへの物語がそこで幕を閉じる。プロジェクトは固定報酬制を採用しており、練習生は収益を意識せず表現に集中できる環境が整えられている。キャッチフレーズは「Side by Side, Step by Step」で、専用YouTubeチャンネルも開設済みである。
審査は3つの多角的な指標で行われる。信頼(運営審査)はガイドライン遵守、誠実な活動姿勢、スキルの向上を見る。熱量(活動データ)は視聴数、同時接続数、二次創作(UGC)の盛り上がりを測定する。意思(ファン支持)はホロプラス等でのアンケート結果が反映される。同社はこのうち意思(ファン支持)を審査の最大比重としており、ファンの「このユニットを、このタレントを見続けたい」という想いが合否を直接左右する構造だと説明している。原則として、切磋琢磨し合うユニット単位での昇格を目指す。同社は本プロジェクトの位置付けについて「ホロライブプロダクションのタレントが眩しく輝く『憧れの存在』なら、mekParkの練習生は『皆様が隣で支え、育てる存在』です」と説明した。
現時点では2つのユニットが順次活動を開始する予定で、特設サイトには「ACHRORA」と「Unit B(Pre-Debut)」のユニット名が掲載された。発表時点では練習生6名のシルエットのみが公開されている。今後も随時オーディションを実施して練習生を募集する予定で、募集開始タイミングなどは公式Xアカウント@mekParkOfficialで告知される。なお、特設サイトのオーディション欄には5月8日時点で「現在、オーディションは行われておりません」と記載されている。
今回の発表は、VTuber市場の成長率が成熟へ向かう局面で打ち出されたものである点でも注目に値する。矢野経済研究所によると、2024年度のVTuber市場規模は売上高ベースで1,050億円となり前年比31.3%増を記録、2025年度は前年度比120.0%の1,260億円規模に達すると予測されている。ただし市場勃興期と比較すると成長は緩やかになっており、新規IPの発掘とファンダム参加モデルの多様化が業界共通の課題として浮上している。デビュー前段階からファン投票を昇格決定要素に組み込んだmekParkの設計は、こうした流れと連動するものだ。
ホロライブプロダクションがオーディション合格者を完成度の高い新人としてデビューさせる方式であるのに対し、mekParkは応援そのものがデビュー可否を直接動かす仕組みである。デビュー直後から数万人規模のファンが集まる既存環境とは異なり、成長過程を共有する新たなファンダム形成モデルがどのような成果を生み出すか、今後の展開が業界全体から注視されている。

